或る零戦乗りの2年間

 私にとって、西暦2000年の記念すべき年は、同時に喜寿を迎える記念すべき年にもなった。
 そこで、自分が今日ここに在るのは「如何?」と過ぎ去りし七十七年を顧みて自問するとき、先の太平洋戦争に零式艦上戦闘機の操縦士として過ごした約二年間の体験は、幾多の人生経験を経た中で、最大の鍵を持つものであつたのは間違いない。
 故に、齢と共に衰える記憶を呼び起こしつつ、当事者のみが持つあの当時の思い出を記録に留める事によつて、現在に生を受ける子孫達に、幾分でも当時の我が国の世相を知り、又、戦争に限らず人と人との殺し合いが、理由の如何に関わらず無意味で悲惨な結果をもたらすものであるかを知ってもらうことを切に願うものである。
 尚、思い出を手繰るにつれ、祖国のための一念で潔く尊い命を捧げられた多くの友の面影や共に過ごした日々のことが脳裏に去来し、共に喜寿の齢を迎え得なかつた事を残念に想うと同時に、改めて祖国と共に平穏に豊かに暮らせる今日の礎を築いて戴いた友へ感謝の念を強くしつつその御霊に深く哀悼の意を捧げるものである。